同時通訳スタイルで英文表現力を百人力にする方法」
2015年6月号
このたびは、 同時通訳スタイルで「英文表現力」を百人力にする方法」に興味をお持ちいただきまして誠にありがとうございます。
「同時通訳スタイルで英文表現力」(以下本書)は、海外の英語ニュースを通して、独自の同時通訳スタイルで日本語から英語の表現力を強化します。同時に、英語で考え、英語で理解する「英語脳」を実体験して、その育成と強化を図ります。
本書の一番の特徴は、以下の心理学者ミラーの提唱する理論を英文表現力の強化のために活用しています。
チャンクは心理学者ミラーの提唱した概念です。人間が情報を知覚する際の「情報のまとまり」あるいは、その単位のことを意味しています。たとえば、「かがみもち」を、平仮名5文字として知覚すると「か・が・み・も・ち」の5チャンク、「鏡」と「餅」と意味ある語彙として理解すると「鏡・餅」の2チャンク、「鏡餅」のこととして理解すると1チャンクとなります。ミラーによれば、人間が一度に覚えられる、あるいは処理できるチャンクの数には限界があり、7±2チャンク、つまり5チャンクから9チャンクとなります。ただし、本書は日本語から英語の表現を考慮して基本的に最大6チャンクとしています。
日本語の内容をわかりやすく英語で伝達するためには、チャンク数を減らしたり、まとめたりして本書のように基本的に3チャンクから6チャンクと適正な数に調整することが非常に効果的なのです。
例えば以下のフレーズでチャンクを考えてみます。
「この新しい開発銀行は中国によって昨年の末に発足した」
「この」は「こ・の」の2チャンクではなく、「この」で1チャンク、「新しい」は、「あ・た・ら・し・い」の5チャンクではなく、「あたらしい(新しい)」で1チャンクということになります。
このフレーズは基本的に「この/新しい/開発銀行は/中国に/よって/昨年の末に/発足した」の6チャンクになります。
"The new /development bank /launched /late last year/ by/ China."
当然、英訳も6チャンクのフレーズになります。
本書では、一度に処理できるチャンス数を、7±2個ではなく、最大6個にして編集しています。(ただし、冠詞が含まれる場合や固有名詞は7個になることがあります)
「この/新しい/開発銀行は/中国に/よって/昨年の末に/発足した」の6チャンクは、一度に英語で表現するには長すぎると判断するからです。
本書では、基本的に3個から6個のチャンク数で編集されています。このチャンク数であれば、素早く一気に英語で表現できるからです。
次に、「同時通訳スタイルで」ということについて説明します。
一番分かりやすいのは、NHKの二カ国語ニュースです。午後7時からのニュースを二カ国語にセットして聞いてみて下さい。
つまり、アナウンサーが、いつもの通り日本語でアナウンスした後で、同時通訳者が英語に直しています。
この「同時通訳スタイルで・・」 という意味はこれと同じ論理なのです。
例えば、アナウンサーが「この新しい開発銀行は中国によって昨年の末に発足した」と言えば、次のような要領で英語の表現に直します。
「この新しい開発銀行は」 とアナウンサーが言えば、
"The new development bank," と通訳者は間を入れずに英語にします
「中国によって昨年の末に発足した」 とアナウンサーが言えば、
launched late last year by China と通訳者は間を入れずに英語にします
「この新しい開発銀行は中国によって昨年の末に発足した」のアナウンスを最後まで聞かずに英語の訳が始まっています。
この新しい開発銀行は The new development bank,/ 中国によって昨年の末に発足した
launched late last year by China,/
なぜなら、「この新しい開発銀行は中国によって昨年の末に発足した」とアナウンスを最後まで聞いて英語に直すと次のようにちょっと苦しくなります。
「この新しい開発銀行は中国によって昨年の末に発足した」と聞いた上で、
この新しい開発銀行⇒ 発足した⇒ 中国によって⇒ 昨年の末に
と素早くに英語のSVOCの構文に並び替えて、英語に直さなければなりません。
この新しい開発銀行⇒The new development bank
発足した⇒launched
昨年の末に⇒late last year
中国によって⇒by China
アナウンサーによる「・・が、・・・・を、・・・に、・・・した」いう1個の完成文が終わる前に、通訳者は、基本的にアナウンサーの日本語を耳にした直後にチャンク単位でどんどん訳していきます。そうしなければ間に合わないからです。
いちいち(。)から(。)まで終わってから、改めて日本語に直す作業をしている間に、そアナウンサーは、すでに3つも4つも先の文章を伝えています。これでは視聴者には正しく伝えることができません。
だからこそ、耳に入った、あるいは目に入った日本語は、3個から6個のチャンク数単位で次々に英語に訳していくのです。
「この新しい開発銀行は」と来れば "The new development bank" の3チャンク
「中国によって昨年の末に発足した」来れば、「発足した」・「昨年の末に」・「中国によってと素早く頭の中で英語の順番に並び替えて、"launched late last year by China" と言う具合になります。
つまり、3チャンクから6チャンク以下なら、一度の処理で日本語を英語の順番に並び替えることができ、更に視聴者にもきちんと意味が通じる最適のチャンク数なのです。
同時通訳スタイルを取り入れたのは、このような同時通訳の現場というバーチャルなシーンを想定して緊張感と集中力と楽しさを維持しながらトレーニングを継続するためです。
本書は、単なる英作文のトレーニングではありません。日本語を英語で表現する力を強化するトレーニングです。つまり「英文表現力」です。
本書は海外の英語ニュースをトレーニング素材にしています。世界のあらゆる場所で展開されるドラマチックな現実を伝える英語ニュースこそ、仕事で使えるレベルの英文表現力の強化には最適の素材なのです。
それでは、同時通訳者になりきって、6月号のトレーニングに入りましょう。
同時通訳スタイルで英文表現力を百人力にする方法」
企画・翻訳・執筆・編集:細見敏夫
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